photo: 腰掛料理 田吾作 by Miho Fujioka

島根県の西のはずれ、山口県堺に「益田」という街がある。
不思議につながるご縁に惹かれ、何度もこの街に足を運んで感じたこと。

「ここには、カッコイイおとなが沢山いる」

時代や流行に流されず、
ひたすらに自分と向き合い、
世の中のあるべき姿と向き合い、
今、なすべきことを貫く。

少しばかり地味?に見えるけど、話せばすぐわかる。
オモシロくて、優しくて、カッコイイ。
そしてなにより、あふれ出る益田への深い想い。

ここは、自分もパワーをもらえる場所。
人のエネルギーは、ポジティブに繋がっている。

その繋がりの一部に触れ、土地に、人に力をもらう。
一流の田舎・益田を支える「カッコイイおとな」に出会えば、
あなたの旅はもっと面白く、もっと豊かに。
一生ものに出会える旅を、VELTRAは応援していきます。

author: Ryoko Mannen (VELTRA), Mitsuko Takebe (VELTRA)
益田 地図
益田 地図

デザイナー洪さんが手掛けると
ホテルもこんなにカッコイイ!

MASCOS HOTEL
代表取締役社長 洪 昌督さん

MASCOS HOTELのフロントに一歩足を踏み入れる。益田駅前大通りののどかな田舎町が一転、シャープで洒落た都会の雰囲気が漂う空間に、戸惑うほど。

昔の益田は「どこにでもあるただの田舎」だった。そう話すのは、MASCOS HOTELの代表取締役社長の洪さん。

そのただの田舎だった益田を文化・芸術の街へと変えたのは「グラントワ」。2005年にオープンした島根県芸術文化センター。光彩を放つ28万枚の石州瓦で覆われたグラントワは、その美しさから名建築として知られ、「島根県立石見美術館」「島根県立いわみ芸術劇場」の複合施設として、いまや周辺地域の文化・芸術の中心だ。企画展やアートに関するイベントも多く、益田ではグラントワを軸に芸術を愛する風土が育っている。

「グラントワが益田の文化レベルを一気に引き上げた。アートの街に相応しいホテルを作りたいと思った」

益田市で生まれ育った洪さんは、益田高校卒業後に上京。東京で映画製作や音楽活動を経験した後、20代後半で家業を継ぐために益田へUターン。それ以降益田と東京を拠点に、MASCOSホテルの経営をはじめとし、様々な分野で活躍を続けている。

MASCOS HOTELを単なるお洒落なホテルにすることが、洪さんの目的ではない。何よりも大切にしているのは、益田の地域・文化に寄り添うこと。このホテルでは、空間デザインやインテリア、器、ファブリック等のすべてにおいて、地場産業と共同で開発した魅力的なアイテムにこだわり抜く。ホテルの枠を越え、1歩先をリードする新たなカルチャーを築いてきた。ホテル1階のBAR&DININGでは、郷土芸能である石見神楽を企画上演したり、第2・第4金曜日にDJイベントを開催したりと、旅行者と地元在住者の文化の交点として機能させている。

「益田を超える」という意味で名付けられた「MASCOS(マスコス)」。このホテルから、次はどんなメッセージが飛びだすのか。三か月後、半年後、一年後、何度も訪れて確かめてみたい。

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「乗り越えられるものはすべて乗り越えてきた」創業56年ハルさんの美学

腰掛料理 田吾作
岩崎 治代さん、志田原 耕さん

昭和42年創業『腰掛料理 田吾作』には、ここでしか食べられない美味しいものを求めて日本全国から人々が集う。その季節、その日の一番美味しいものを提供する島根を代表する名店だ。

田吾作の台所を仕切るのは岩崎 治代さん、通称ハルさん。
隣に立ち彼女を支えるのが、ハルさんの甥っ子の耕さん。現在の店主だ。
「自分は岩崎治代という人間が作ってきたものを守る立場。出来る限り続けていきたい」
以前は東京で働いていたが、23年ほど前に益田へ戻り、ハルさんと共に、田吾作を支えている。

「活きたものを食べたら美味しい。だから活きているものしか出さない」
自然と向き合い、けっして妥協しないハルさんのこだわりが、この店の美味しさの秘訣だ。お店の生け簀から出して、すぐに捌かれたイカの刺し身は特に絶品。「今日イカある?」とお客さんが開口一番に尋ねるほどだ。その透き通った色とコリコリとした食感は、提供後の数分間しか味わえない。

今でこそ雑誌やテレビで特集が組まれるほどの人気店だが、ここに至るまでの道のりは決して平坦ではない。

55年前にハルさんが母親とこの地に田吾作を立ち上げた頃は、男女不平等がまかり通っていた時代。女性が外でお酒を呑むなど考えられず、「女が作った刺し身は食えない」と言われたこともあった。

「日本海の気まぐれとお付き合いしている」との言葉どおり、名物のイカが2か月も採れない時期が続いたり、温暖化の影響で旬の時期に旬の魚が獲れず、獲れても脂が乗っていない、そんな仕入れの難しさにも幾度も直面した。

「家族やお客さんのために」「女の人が安心して来てくれる店を作りたい」
そんな想いを貫き、お店を守り続けたハルさんがいるからこそ、いまの田吾作があるのだ。

田吾作が、日本全国から人を呼びよせる本当の理由は、料理の素晴らしさだけではない。
「乗り越えられるものは乗り越えた。やめようと思ったことはない」
小柄な体から溢れ出るハルさんの温かさと強さに、私たちは引き寄せられるのだ。

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あくなき幻のワサビの復活へ
安藤さんと匹見の深い森の世界へ

株式会社葵屋
代表取締役 安藤 達夫さん、取締役 上田 康司さん

益田市匹見(ひきみ)町は、島根県・広島県・山口県の県境の山間部に位置し、木々や清流が生み出す自然の景観や、古き良き日本を思わせる美しい田園風景から、島根県の「秘境」として知られている。

かつてはワサビ栽培が盛んで「東の静岡、西の匹見」と言われるほどワサビの名産地として知られていたが、度重なる水害や後継者不足の問題により、多くのワサビ谷が耕作放棄地となった。そんな匹見ワサビの復活を目指して設立された会社が「葵屋」だ。

代表取締役の安藤さんは、京都で林業関係の仕事をしていたが、匹見町のワサビ谷に惹かれてIターン移住。匹見町出身の上田さんを含め、U・Iターン者を中心として2009年にこの葵屋を創業した。

「急斜面に石を積んだ、匹見伝統の”渓流式ワサビ田”を0から作るのはとても難しいけれど、手を入れればまだまだ使えるワサビ田がたくさん残っている。そのような場所を有効活用したい」と考え、取り組みに共感したボランティアの方々の力も借りながら、荒れ果てたワサビ谷を何年もの時間をかけて少しずつ復旧させてきた。限りなく天然に近い自然環境で育った、辛味・甘み・香り・粘りのバランスの良い葵屋のワサビは、時には品切れになるほど高い評価を受けている。

葵屋の取り組みは匹見ワサビの復活だけにとまらない。匹見の森林でこれまで活用されていなかったクロモジの木に着目し、島根県産業技術センター、浜田技術センター、益田市の酒造会社 岡田屋本店と連携し、「黒文字焼酎- HIKIMI 烏樟森香(うしょうもりのか)-」を開発。クロモジの香りが楽しめるボタニカルフレーバーの新感覚焼酎として注目されている。その人気は国境を越え、フランスやオーストラリアなどでも評価され、海外への輸出も増え始めているそうだ。

伝統産業の復活、地域資源の新たな活用を進め、葵屋は匹見の美味しさを世界へ発信していく。

黒文字焼酎を購入する

人も動物も「だれにも、等しく陽のあたる場所を」大賀さんの心意気

社会医療法人 正光会 就労継続支援A型事業所 さんさん牧場
施設長 大賀 満成さん

萩・石見空港から車で5分。日本海を一望できる高台に位置する「さんさん牧場」は、観光牧場であり、「就労継続支援A型事業所」でもある。障がい者の方が馬や動物の世話、野菜やお茶作り等の仕事を通じて、自立と社会参加、自分らしい暮らしが出来るよう、それぞれの課題に合った支援を受けながら働いている。全国でも珍しい、社会医療法人が運営する牧場が、ここ益田にある。

「益田では障がい者が自立に向けた訓練をする施設や、特別支援学級・養護学校等に対する支援を行える場所が不足していた」と話すのは、施設長の大賀さん。

同時に、乗馬クラブやホースセラピーの場として市民から愛されていた「益田市立馬事公苑」が、施設の老朽化や市の財政健全化の影響で廃止となった。存続を望む声が寄せられていた中、馬と触れ合える温かい施設を残し、障がい者の就職先にもなる施設を目指し、「さんさん牧場」は誕生した。グループホームを併設し、障がい者の方が安心して働き、暮らせる場所を用意するだけでなく、障がいや発達に特性を持つ子どもたちを受け入れ、動物との関わりを通してゆっくりと成長していける場を提供している。

大賀さんたちが目指すのは、人の幸せだけではない。馬、ポニー、うさぎ、ヤギといった牧場の動物たちにも、安心して暮らせる場所を作ることを大切にしている。10頭いる馬のうち、4頭は元競走馬。行き場がなくなることの多い引退後の競走馬を積極的に引き取り、セラピー馬、乗用馬、観光馬として第二の馬生を穏やかに過ごせる環境を提供している。

陽の光がさんさんと降りそそぎ、人も動物も、心穏やかに過ごせる牧場。今日も温かな時間が流れている。

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雪舟焼き二代目福郷さんの


「優しく凛とした」

美の世界へ

雪舟焼窯元
二代目 福郷 徹さん、政子さん

涙でネズミの絵を描いたことで知られる画聖雪舟(雪舟等楊)が築いた庭園の美しい医光寺。その隣に、優しい笑顔のご夫婦が営む窯元がある。

昭和24年、名古屋・岡山各地で陶芸を研究した初代 福郷不徹さん(後に「徹」に改名)が、医光寺の26世住職・家根原宗寿師に招かれこの場所に築きあげたのがこの窯。二代目の福郷徹さんも家族と共に移住し、益田で育った。20代は京都・備前で修行を積み、戻った益田では、静かな中にも凛とした風合い溢れる雪舟焼和陶器を作り続けている。

禅の世界を表した「雪舟庭園」の世界観を世に広める目的で作られた雪舟焼。信仰心と心魂から生まれた作品と表現され、雪舟の風流を組んだ高い芸術の雰囲気が漂う。

福郷さんが生み出す器は、古陶磁を偲ばせる侘びがありながら、地元益田産の原料を使用した柔らかな色合いの釉薬で色付けされる。丁寧に絵付けされ、不思議な温かい魅力を放つ。使ってみてわかる喜びがある。薄くて軽くて思わずそればかりを選んでしまう。食器棚の中でキラリと光る存在感は独特のものだ。

雪舟焼き窯元の隣にあるのが、雪舟庭園を擁する医光寺。春になると圧巻のしだれ桜が、庭園を美しく彩り、多くの人々がこの桜を見に訪れることでも有名だ。京都から何人もの桜守に守られて今年も見事に咲き放った。医光寺とともに萬福寺の庭園も手掛けた雪舟は83歳、この地で生涯を終えた。1955年ユネスコ国際会議で雪舟さんは世界十大文化人に選ばれている。その世界感に浸ってみたい。

益田で毎年秋に行われる自転車乗りのための一大イベント、 I・NA・KAをご存じだろうか?ライド参加者に傷害保険付きのお守りを配るなど、益田を盛り上げるためにも一役かっている。雪舟焼き体験の前後に、そして益田に来た際には一度ぜひ立ち寄っていただきたい場所のひとつだ。深くて心地よい気が流れている。

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島根県益田市
その他の見どころ

日本海と中国山脈に囲まれ、日本一の清流・高津川が流れる益田。自然と共生しながら豊かな歴史文化を紡いできました。中世の遺産が多く残る一方で、質の高い芸術に触れられる「グラントワ」や新感覚のクラフトホテル「MASCOS HOTEL」などが次々に誕生。新旧の文化が出会い、交わい、新たな風景を生み出しています。しばし時間を忘れ、味わい深い一流の田舎町をゆったりめぐってみませんか。

益田へのアクセス

島根県益田市の「萩・石見空港」へは、東京・羽田から直行便で約90分。大阪・広島方面からも新幹線、高速バスなどでアクセス可能です。空港から益田の市街地までは、バスやタクシーでたったの10分。フライトの時間に合わせて路線バスが運行しており、到着後すぐに街の中心部まで行くことができます。

東京から
羽田空港より萩・石見空港まで約90分、バスで益田駅まで約10分

大阪から
伊丹空港より萩・石見空港まで約60分(季節運行)、バスで益田駅まで約10分
新大阪駅より新幹線で新山口駅、バスで益田駅まで 約5時間
新大阪駅より新幹線で広島駅、特急列車で益田駅まで 約5時間

広島から
車で約2時間30分
バスで約2時間30分〜3時間15分
新幹線で広島駅から新山口駅、特急列車で益田駅まで 約2時間30分

萩から
車で約1時間15分
電車で東萩駅から益田駅まで 約1時間20分