沖永良部島 - 民宿運営者インタビュー「ゆっくりと流れる時間の中、暮らすように泊まる」 image

沖永良部島 - 民宿運営者インタビュー「ゆっくりと流れる時間の中、暮らすように泊まる」

鹿児島市から南に550km、沖縄から北に60kmの海上に位置する、人口1万4000人あまりの沖永良部島。そこに旅好きのご夫婦が小さな民宿を開きました。

1日1組限定の、「宿泊する」のではなく「島に暮らす」という言葉がぴったりのこのお宿では、宿主と一緒に食事をしたり、農業や文化体験をしたり、学びも多い時間を過ごせること間違いなしです。

様々なご縁ときっかけが重なり、この島への移住を決めた有川夫妻。どの様な思いで民宿「島暮(しーまくらす)」を立ち上げ、運営しているのか。そこには、ご夫妻の旅行への熱意と地元の人々や歴史文化への尊敬の念に溢れていました。

今回は、奥様の晶子(しょうこ)様に「島暮」へかけた想い、沖永良部島の魅力などのお話を伺います。

旅行や自然と、切っても切れない縁で繋がっていたご夫婦

- 「沖永良部島に、旅好き夫婦が宿を開きました」という何とも惹かれるキャッチフレーズですが、そのきっかけなど、お二人の経歴も含めて教えてください。

私は短大を卒業して、普通のOLとして仕事をしていました。学生時代から海外に興味があり、イギリスにボランティア留学をしたこともあって、学校卒業後は日本語教師として働いたりして様々な社会経験を積んでいましたよ。主人とは「山の会」で出会い、旅行や海外のことなど話も合って意気投合し、結婚して東京に住んでいました。

沖永良部島への移住のきっかけは、実は「東日本大震災」なんです。子どもがおりましたので、小学校入学と同時に沖永良部島に移住しました。主人の祖父が沖永良部島出身で、主人方の親戚の故郷に戻るかたちになりましたね。

- 学生時代から海外や旅行にご興味があったのですね。ご主人のひろあき様も以前は旅行会社でお仕事をされていたと伺いました。

そうですね。主人は「山」をメインに取り扱っている旅行会社で働いていました。インドヒマラヤの麓山荘の管理人の様な仕事もしていて、夫婦ともに自然が大好きです。結婚した後も、二人でいろんな場所に旅行しましたよ。

- 沖永良部への移住を決心した時点で民宿をやろうと決まっていたのですか。それとも、また何か別のきっかけがあったのでしょうか。

私も主人も今までの旅行スタイルで、漠然とですが、現地の人との触れ合いが一番楽しいなと思っていました。ガイドブックに載ってない場所を歩いたりとか、突然集落に訪ねて行って地元の人達と話すこととかが一番印象に残っているんですよね。いわゆるパッケージ旅行ではない旅行です。なので、「来てくれた人が、島の生活を身近に感じられる旅になるような民宿をやれたらいな」と考えていました。

別のきっかけとしては、4年前に奄美群島の通訳案内ガイドの資格を取ったことです。海外からも観光客が来る中で、宿泊もできる拠点となる場所があればいいと感じるようになりました。日本語教師の経験もあるので、日本語の勉強もできる、島暮らしの体験もできる、自然とも触れ合えるような場所を作りたいと考えましたね。

急ぎ足の旅行ではなく、のんびりできる旅行スタイルを提案したいと思って、現在も模索中です。

「島暮」に込められた願い、泊まる以上の体験と感動を

- 島暮をオープンして何年くらいですか。

3年程ですね。ふすまを張り替えたりDIYしたり、のんびり改修しています。一昨年くらいから知り合いグループを招いたりして、一般のお客様を迎えるようになったのは去年からですね。

秋から春先にかけては、バスガイドの仕事もしていますよ。通訳案内士の資格もありますが、英語で案内する前に日本語での知識も蓄えたいのでバスガイドの仕事もとても役立っています。島の概要に加え、集落など、より地元に根ざしたことも勉強しています。

- 次は、島暮の施設についてより詳しく教えてください。まず率直に「島暮(しーまくらす)」という名称がとても印象的だったのですが、そこに込められた想いはどんなものでしょうか。

ここでできる農業体験、文化体験のことを「クラス」として、学びの場になればいいなと思いました。単に宿泊するだけでなく、プラスアルファで島のことを少しでも体験していただきたいということですね。

- 惹かれた点が、プランによっては「お客様と夕食を作り一緒に食べる」という内容です。農泊の中でも、滞在中は宿泊者のみでゆっくりというスタイルも多いと思うのですが、お客様と一緒に食事をするというところに込められた意図を教えてください。

そうですね。まず、私自身が島への移住者であり、最初は全く知り合いもおらず知識もないといった状況の中で「地元民と島料理を作って一緒に食べる」といった経験がとても嬉しかったんですよね。(もちろん、お好みによってお客様のみで食事する、外食するという対応も可能ですよ)

あとは知り合いの島人の方を呼んで、より詳しい島の話を聞けたり、過疎化が進んで老人の方が多い島なので、そういう方々を呼んで、島全体を盛り上げるというか。島人の人達にも「観光客とのコミュニケーションが楽しいな」と感じていただけるような機会になればいいと考えました。

- 今までのお客様は一緒に食事したりされたんですか。

島料理に限らずお好みに合わせて一緒に作ったりしますよ。使う食材は昼間の農業体験で収穫したものや、近所で調達したものを使います。

自分達の手作りだからこその困難と、協力してくれる島人の絆

- この島暮を運営するにあたって、ご家族との生活や別の仕事もある中で、困難も沢山あったかと拝察します。どうやって乗り越えていったかなど、お話を聞かせていただけますか。

その分時間もかかってるんですよね。本当はもっと早く(コロナの前には)軌道に乗せたいと話していたんです。今年こそはしっかり基盤を作ろうと思っていましたが、こんな状況になってしまったので足踏み状態ではあり、そこが大変ですかね。

でも、島暮らしって子どもの行事や地域の集まりとか結構あって、意外と忙しかったりするんです。東京にいた時は自分のことだけやっていればいいという感じだったんですが、ここは地域の絆が強く日々忙しいながら充実した生活を送っていますよ。

- 農業体験や芭蕉布織りなどの文化体験もできるとのことですが、こちらもご夫婦で手伝っていただけそうな人を探していったのですか。

そうですね。芭蕉布織りや農家に関しては、私自身もお手伝いにちょくちょく行ったりしていて、その繋がりで依頼したりとかしていますね。子どももおりますので、やはり無農薬野菜とか身体にいいものを食べさせたいと思っており、知識なども増やしています。

- ご自身がとても勉強熱心でおられて、それを人にも伝えたいということなんですね。今までの宿泊者の方で、何か印象的なエピソードはありますか。

今、うちクーラーがないんですね。夏のお盆に東京から泊まりに来たご家族が、そういう生活のギャップを楽しんでいたのが印象的ですね。ある意味不便ではあるけれども、島に吹く風とか南国の空気感を暑さも含めて楽しんでいらっしゃいましたね。

まだあまり知られていない沖永良部島の魅力

- では晶子さんが個人的に思われる沖永良部島の魅力や、これだけはどこにも負けないと思うポイントはどこでしょうか。

自然が本当に素晴らしいです。特に、梅雨明けの海の色は今までに見たことがないくらいの美しい紺碧の色をしています。ここはサンゴ礁が隆起してできた島なので、実は砂浜が少ないんですよね。そのため、リアス式海岸のようなゴツゴツした荒々しい風景も見ることができますし、数少ない砂浜ビーチも、人が少ないので隠れ家ビーチのように遊ぶことができます。

山もあり、標高が一番高いもので245mなので気軽に登っていただけます。頂上からの見晴らしもよく、天気がいいと与論島や沖縄まで見えることもありますよ。飛行機がない時代、昔の人はどんな思いでこの景色を見ていたのかなあと思いを馳せることもありますね。

あとは、観光地化がまだ発展途上のこともあり、素朴な人が多いところが魅力ですね。優しい方が多くフレンドリーに「あんた、どこの人ねえ?」から会話が始まってとても人情味に溢れています。

利便性だけ考えたら、都会に比べて明らかに不便なんです。でも、昔の日本を感じてみたい方には本当におすすめですね。商店街なんかも昭和の雰囲気がそのまま残っていますし。それ以上の魅力が沢山ありますよ。

- 公共交通機関などはどんな感じなんですか?

徒歩か車が主ですが、実は路線バスも通っています。利用者が少ないのですが、今後は路線バスも組み込んだツアーなども企画したいなって。折りたたみ自転車も持っていって、バス停降りて自転車で周辺観光するとか、そういうのも面白いって思いますね。

- なるほど。それは面白そうですね。観光の他にも、島で有名なお料理とかはありますか。

島料理を提供しているお店もありますよ。琉球の影響を受けているので、沖縄料理と似ている部分もありますね。定番メニューだと「ヒルアギ」というのがあります。「ヒル」というのはニンニクのことで、ニンニクの葉っぱを豚肉や厚揚げなどと炒めるのが、お正月に食べる伝統料理です。

あとは、「ゆきみし」というお米の粉に黒糖をまぶして蒸し上げたお菓子があり、これは冠婚葬祭には欠かせないですね。

島ではパッションフルーツ、マンゴー、グァバなどの南国フルーツも沢山穫れますよ。

不便さを超越する、心の充実と現地の人の温かさ

- 東京から沖永良部島に移住したことについて、「少し不便」という言葉もありましたが、それをずっと上回るほどの「充実」があるのだと思います。晶子さんが思う、沖永良部にいて「幸せ」と感じる瞬間はどんな時がありますか。

私達のお家が南西向きで毎日夕日が眺められるんですね。単純ですが、綺麗な夕日を見られた時は「ああ、幸せだなあ」と感じます。海側で水平線に沈むんですよね。

また、海が近いので、海岸に夕涼みに行けるのも最高ですね。

あと、さっきも言ったようにサンゴ礁が隆起してできた島なので、島内には川がほとんどないんですね。なので、地下河川が発達しており「暗河(くらごう)」という水汲み場が集落ごとにあって、水道が普及する前はそこに洗濯やお風呂に行っていたそうなんです。その水が真夏でもとっても冷たくて。昔の人の知恵と歴史が詰まった場所なんですが、個人的にすごく好きですね。

- 日々の生活の中で大自然に触れられるのはやはり島暮らしの醍醐味ですね。

その通りです。それと、やっぱり何と言っても人の温かさ。

私、実家は東京なんですが、帰省してもすぐに島が恋しくなってしまうほど、引きつける魅力がありますね。時間が進むペースがゆっくりで、本当にのんびりしているので。

- では最後に、農泊があまり身近ではない子ども達に何かメッセージを届けられるとしたら、どんな言葉をかけますか。

まずは、「やってみよう!」ということですかね。

訪れて初めて分かること、感じることばかりなので、「まずは、ぜひおいで!」ということを言いたいです。

- 冷房がなくても、鍾乳洞の冒険や農業体験で、いっぱい汗かいて、笑って、かけがえのない経験をしている子ども達の姿も目に浮かびます。

島のことわざですが、「えらでぃ えらばらぬ えらぶじま 」という言葉があります。「選んでも選びきれない沖永良部島=最高の島」という意味で、島民は沖永良部島のことをとても誇りに思っているんですね。私達も心からそのように思っていますよ。

インタビュー後記

晶子さんがお話しする言葉の一つひとつに、島への愛情や誇り、もっと知りたいという探究心のようなものを感じました。

インタビュー中もご主人に助言を求めたり、お子様の話をされたり、ご家族全員でこの民宿を作り上げている本当に温かい雰囲気です。

有川様ご一家に会いに、また、海をはじめとする大自然に会いに、ぜひ沖永良部島を訪れてみてはいかがでしょうか。

やってみよっか?

ログインなしで「いいね!」
あなたに合った情報が探しやすくなります



余暇のアイデア人気ランキング

特集連載

あなたにおすすめ

「いいね」すればするほど、あなたの好みに合った余暇プランがピックアップされます
ログインなしで「いいね!」
あなたに合った情報が探しやすくなります