最後かもしれない家族全員での海外旅行は、人間の英知を結集し、贅をつくした本物に触れる旅にしたかった。かつて富が集中したイタリア、その中でもヴェネツィアを外すことはなかった。思い出深い旅行にするため、受け身的なパッケージツアーは避けて、自分た... 続きを読むちで事前に調べ上げ、交通手段や訪問する遺跡、宿泊場所などを組み立て、旅行プランを練り上げた。しかしながら、歴史的背景やエピソードを知るには限界があるため、VELTRA社の現地ツアーに参加し、日本語ガイドさんのお世話になることとした。
ガイドSさんからは、気さくながらも、こちらの知識度合いに応じてわかりやすく解説いただいた。サン・ジョルジョ・マッジョーレ教会の特徴は、白を基調とした外観や、明るく開放的な内部の空間にある。富と権力を誇示する要素があったといえども、宗教的意味合いが強い教会において、ローマ式神殿風建築を取り入れたことはコペルニクス的発想の転換であり、当時の人々にとって受け入れ難いものだったと想像できる。サンマルコ広場の対岸という絶好の場所に位置する島に、革新的な教会を建設するという発想を持った当時の提督と、その期待に応えようと挑戦するパッラーディオの気概がSさんの説明から伝わってきた。
鐘楼から見たヴェネツィアの町は、スキアヴォーニ河岸から見た雄大な自然とは全く別ものであり、数百年にわたる人間の営み、栄枯盛衰は、美しくも、はかなさを感じるものであった。場所、角度を変えてヴェネツィアを俯瞰しながら、人間の有限性を理解し、固定観念を排除した彼らの思いを感じ取ることができたように思う。
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