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和包丁のメンテナンス - 名古屋市 三浦刃物店に聞く、包丁砥ぎから紡ぐ「忍耐力」

料理をするとなると、必要不可欠な道具のひとつに「包丁」があります。

ベルトラでは、どのご家庭にもある包丁の砥ぎ方体験のアクティビティを販売していますが、今回は、その三浦刃物店の店長坂口様へ日本包丁の魅力や、メンテナンス「砥ぐ作業」についての奥深さを伺いました。

お料理好きな人、料理の道具にもこだわりたい人へおすすめ!

とても身近な「包丁」について、「料理の道具」をはるかに超えた心に秘めた想いも一読の価値あり。日本の職人技から見えてくるこだわりや精神論を知ると、料理がより一層楽しくなるかもしれません。

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日本包丁の「魅力」~国境を超えて人気の理由~

- まずは、和包丁の全体を通しての強みや魅力を教えてください。

絶対的なところは、昔からある「鋼」でしょうか。鍛冶屋さんの経験で包丁を作成して、素材の最大の特徴を引き出している包丁が海外製との最大の違いです。ここで言う違いというのは、包丁との切れ味の差、仕上げの丁寧さです。

「和包丁」はユニークで、片刃になってるのが特徴のひとつです。本場の和食の職人が使うような包丁は海外にはないですね。また、総じて一番の自慢は「切れ味」ですね。総合的に色々な要素が合わさって日本包丁独自の切れ味になります。

- 海外の包丁は、素材が何種類もあったり、素材を組み合わせたりはするものですか?

従来はそうでした。昨今は和包丁のブームもあり、和包丁を模したものも沢山ありますよ。また、ステンレス包丁になると海外の方が優秀なケースもあります。しかし、和包丁(片刃の包丁)に関しては、当然ながら未だに日本がトップです。

日本の和包丁は用途がひとつずつ決まっているので、用途に合わせて持ち替えなければならない。そういった違いがありますね。また、地域によって同じ用途でも形が違うこともあります。

- 素材によってもちろん違うと思いますが、包丁はメンテナンスしないと錆びてきたり傷んできたりすると思います。家庭で使う一般的なものだと、どのくらいで悪くなってしまいますか?

大前提として、鋼のものは使っている最中で悪くなって(青くなって)きてしまいます。

例えば、玉ねぎなどを切ると10分くらいで錆びやすくなる。反対に、ステンレスの包丁は水洗いの後タオルで拭く程度でOKですよ。「切れ味」に関しては、職人が丹念に作り上げた鋼の包丁に勝るものはないです。ただ、「砥ぎ」という作業が必須になってきます。

包丁を「手入れ」するということ

「確かに、手入れすることは大変なことです。でもそれと同時に、包丁と自分が一体となって、”どこまで可能性を広げられるか”と感じることに、奥深さを見出します。」坂口店長は熱意の込もった声で語ってくださいました。

- 続いて、包丁の「手入れ」の中にある魅力を教えてください。秒単位・分単位で傷んでいく、「手入れ」=手がかかる、などネガティブにも思われがちですが、逆を言えば、しっかり手入れすれば、何十年も長く使えるものですね。

はい、その通りです。

確かに、初めて触る方は「手入れが面倒」と感じる方も多いと思います。しかし、何かしらの道具に関しては、包丁に限らずおしなべて日々手入れが必要だと思います。「手入れ」を自らの手でやっていくと、道具に対する理解が深まりますし、このくらいで錆びるという目処が立ったり、力加減などを学べます。結果、その道具を使いこなせるようになるのです。「自分の一部になる」感覚が「手入れ」の魅力ですね。

包丁砥ぎは「切れ味」という目に見えるかたちで成果で分かるのでやりがいもとてもあります。砥石選びも大切で、砥石そのもののメンテナンスも必要ですよ。

「包丁を砥ぐ行為」から学ぶ「焦らない」の精神

「包丁を砥いでいると『焦ると何事も上手くいかない』ということをより強く実感します。」と坂口店長はしみじみと語りました。「時間に追われていたり、手っ取り早く終わらせようとすると絶対に上手くいきません。何事もしっかりと時間をかけて向き合っていかなければならないということを日々学んでいます。その積み重ねが『マインドフルネス』にも繋がっているのではないのでしょうか。」

-  なるほど。「”高価=長持ち”という単純な話」ではないですね。わざわざ古いものを自分で手入れをして、包丁が応えてくれるような精神論について教えてください。包丁に限らず、私生活で感じるところは何かありますか?

刃物に砥ぎは必須です。自分で行うことによってより愛情が湧いてくることは魅力のひとつですね。

もうひとつは、「砥ぎ」という行為そのものに対して。長年の技が必要でそれは私達にも難しい部分があり職人さんに依頼が必要です。それくらい深い世界なんですね。ただ、普段使いの砥ぎは素人でも可能なので、チャレンジしてみてほしいです。

繰り返しになりますが、「焦りは禁物」ということをより強く実感しています。

包丁砥ぎは雑念があってはいけないですが、同時に知識やその包丁に合った砥ぎ方を常に考えていなくてはなりません。その同時進行が非常に難しいですね。ただ、スタンスに関しては人それぞれなので、色々な人の話を聞くことによって学ぶこともたくさんあります。

例えば、各職人さんはご自身それぞれのポリシーを持ってお仕事をされていて考え方が違います。鍛冶屋さんであれば、得意な材料などもある。本当に奥深いです。昔ながらで、ひとつの鉄のかたまりから作り上げている職人もいますよ。

日本料理をもっと楽しく、身近に~おすすめ包丁の紹介~

彼は、包丁と日本料理の繋がりを丁寧に語ってくださいました。

「総じて言えるのは、日本の包丁作りは『洋食は足し算、和食は引き算』と言われる所以になっていることです。一般的に、洋食はスパイスやハーブなどを足しながら味を作っていく『足し算』と言われいている点に対して、和食は食材の一番美味しい時に最小限の手を加え、余計なものを省く『引き算』と言われています。和食は食材の本来の味を引き出すために、包丁の切り口・切れ味・食材にふれる表面積にまでこだわるのです。」

- それでは、「和包丁」を道具としてではなく、もう少し広い意味で捉えて「料理に対する想い」はありますか?使い方・楽しみ方などアドバイスをお願いします。

単純なところですが、切れ味のいい包丁を使うと料理が楽しく気持ちよくできると思います。

和食は繊細な料理なので、包丁の良し悪しが出来合いに直結してきます。ぜひ、一本でもいいものを持っていただいて、包丁本来の面白さに触れていただきたいです。

使い勝手が異なる本格的な和包丁の数々は難しいかもしれないので、初めの一本としては「 三徳包丁 」、もしくは、海外から入ってきた万能包丁である「 牛刀 」(発祥は海外だが、紆余曲折経て今の形になった)がおすすめです。

この二種類があると、肉・魚・野菜全てに使えるので、ご家庭用として持っていて後悔はしません。

例えば、「 三徳包丁 」は、刀身が長すぎなくて使いやすいです。刀身が約16-18cmくらいのものが多いです。先端がカーブしていて、押し切ることができるので誰でも比較的簡単に使うことができます。

また、「 牛刀 」に方は、日本が開国して牛肉食の文化が入ってきた頃に日本に伝わったと言われています。海外で言う「シェフナイフ」と呼ばれたものです。合理的に料理できるように1本で全て料理ができるというスタイルですね。ヨーロッパで包丁が盛んなところ(ドイツ・オランダ・フランスあたり)からの歴史があります。

-  なるほど。では、2,3本目にはどのような包丁がおすすめですか?

さらに本格的に日本料理を極めて行きたい方には、 出刃包丁 柳刃包丁 などの「片刃包丁」をおすすめします。

包丁は、片刃と両刃(刃が左右対称に削られているもの)という形状の違いや用途の違いがあります。例えば、 三徳包丁 牛刀 は「両刃」で刃が左右対象に削ってあり両面が切れるようになっています。逆に 出刃包丁 柳刃包丁 は片側しか削られていなく、利き手(右利きか左利きか)が分かれます。

魚をさばく機会が多い方には 出刃包丁 がおすすめです。刃が広く厚みがあって重いので頭を落とすことも容易にできます。

また、 柳刃包丁 は長さを活かして食材をきれいに削ぐことができるので、魚の皮を引いたり、刺身を切ったりするのに向いています。また、食材を切った時の抵抗力がより少なくなるようデザインされており、食材に触れる表面積を少なくしているので食材そのものの味を損ねません。

このように、一つの食材に特化し、刃の厚さや重さ、カーブまで計算されて作られているのが本格的な和包丁のユニークさです。

-  万能包丁にしろ、専門的な包丁にしろ、使用する人が普段どのようなお料理をするのかで方向性が異なってきそうですね。

そうですね。例えば「家庭料理」として日本食を極めていきたい方は 三徳包丁 牛刀 をレベルアップさせていきながら購入するといいです。反対に、本格的な和食を作りたい、和食レストランのシェフをしているなどの方は、 出刃包丁 柳刃包丁 なども必要だと思います。ご自分のスタイルに合わせて購入をご検討ください。

三浦刃物店でのメンテナンス

-  三浦刃物店の販売員の知識・技術・メンテナンスの質について教えてください。

はい、当店は包丁を売りっぱなしではなく、その後のメンテナンスも一緒にする精神を大切にしています。どんなに高価で高級な包丁でも、メンテナンスを怠れば切れなくなってしまう点はどれも同じです。我々も日々勉強で、各包丁に合った砥ぎ方やメンテナンスを学んでいますよ。例えば、アドバイザー(相談役)大阪堺「酔心(すいしん)」の職人に付いて修行したり、砥専門の職人に師事をして、考え方・理論も含めて勉強しています。お客様も購入後、メンテナンスに訪れることも多いです。

もしも疑問や質問があった場合は、ご連絡いただければ当店スタッフが丁寧に対応させていただきます。

また、はじめにお伝えしたいのは、「包丁の断面形状と硬度の違いにより、日本の包丁は砥ぎ棒で砥ぐのに向かない」ということです。包丁だけでなくぜひ砥石も一緒に購入されることをおすすめします。メンテナンスについての質問やお問い合わせはいつでも受け付けております。

ご家庭での砥ぎは一ヶ月に一度が現実的で、基本的には切れ味が悪くなった時に都度行っていただきたいです。とはいえ、難しい場合は、少なくとも三ヶ月に一度は砥ぐようにしていただき、包丁の状態に応じて半年~一年に一度、プロのもとで型直しをしていただくことを推奨します。

インタビュー後記

今回取材をさせていただいた「三浦刃物店」は、和包丁の知識も豊富で初心者にもとても分かりやすく説明してくださいました。またそれと同時に、包丁砥ぎを通じて感じられるスピリチュアルな精神論などとても奥深く興味深いストーリーまで語ってくださいました。

日々の料理も「日本製包丁」で一段と楽しくなること間違いなしです!

出典・参考

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